すこやかマガジン第834号
涙のカツ丼
6月29日配信
あれは、私が高校1年生の時でした。
その頃、私にはどうしても欲しいものがありました。高額なものだったので絶対に買ってもらえないと思い、「バイトしたい」と母に言いました。すると、即答で「ダメに決まっているでしょ」と言われました。でも、どうしても欲しかったので、私は粘りました。私の粘りにさすがの母もしばらく考え、「そんなに言うなら、家でバイトしなさい」と、予想外の提案をしてきました。「家?」私は一瞬とまどいましたが、母によると家でするバイトとは、このような内容でした。
『1回500円で夕飯を作ること』
『週末に1000円で家中のお掃除をすること』
計算してみると意外とすぐにお金がたまることに気づき、しかも、これは花嫁修業になるかもと思い、頑張ることにしました。
今のように簡単にレシピを検索できないので大変でしたが、母が夕飯の支度をするのをじっと見て、真似して作りました。夕飯を作る回数はだんだん増えていきました。
ある時、母と二人だけで夕飯という日がありました。「揚げた豚カツ買ってきたから、カツ丼にして」と母に言われました。「え、どうやるの?」と聞いても、母は疲れているのか「卵でとじるの!」と言うだけでした。私はよく分からないまま何とか作りましたが、汁気がなく、パサパサでした。母の機嫌の悪いのが私にもうつり、母に対して不愛想に「できたけど…」と言ってパサパサのカツ丼を差し出すと、それを見るなり母は、「こんな汁気の無いものはカツ丼じゃない。食材を無駄にするな!」と言って流しの三角コーナーに捨てたのです。その時私は、一瞬何が起きたのか分かりませんでした。その後、じわじわと悲しみと怒りが湧きあがってきました。
「500円とはいえお金をもらうなら、それに見合う仕事をしなさい。」といった趣旨のことを言われた気がしますが、その時の私に、母の言葉はあまり入ってきませんでした。 何十年もたった今、思い切って母に、どんな気持ちでカツ丼を捨てたのか聞いてみました。すると母は、「えー、そんなことしたっけ?覚えてないなあ。たぶん、その頃よっぽど仕事に疲れていたかもしれないな…。申し訳なかったね…。」と、しんみり言われました。それを聞き、疲れている母を察することができなかった私も悪かったなと、何十年もたった今さら反省しています。いつか実家に帰ったら、つゆだくのカツ丼を作ってあげようと思います。
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