すこやかマガジン第903号
脳を傷つけるマルトリートメント
先日、スーパーに買い物に行った時のお話です。休日の夕方のスーパーは、家族連れも多く、平日より大勢の人でにぎわっていました。私が、人の波をかきわけ、買い物をしていると、私の前を下を見ながらゆっくりと歩く小学校高学年くらいの女の子がいました。通りすぎるのを待ち、「何してるのかなぁ」と目を向けると、スマホでゲームをしながら歩いているではありませんか!両親は女の子の前を歩き、2人で楽しそうに話しています。後ろの子どもを振り返る様子はありません。なんだか複雑な気持ちになっていると、今度はベビーカートに乗って、何やら楽しそうに声をあげる子どもに出会いました。子どもが声をあげるたび、両親は子どもに向かって「楽しいねー」「そうだねー」「静かにねー」などやさしく言葉を返しながら買い物をしています。なんだか温かい気持ちになりました。
さて、先日、当センターで行われた「子育て・家庭教育相談セミナーⅡ」で講演いただいた福井大学 子どものこころの発達研究センターの医師であり教授の友田明美先生から衝撃的な話を伺いました。「子どもへの避けたいかかわり=マルトリートメント」により子どもの脳が傷つき、また精神疾患にかかるリスクが生涯3倍に、さらには寿命を20年も縮めてしまうのだそうです。
では、「マルトリートメント」(以下マルトリ)とは…。身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、といった児童虐待があてはまります。また、虐待とは言い切れない、どこの家庭でもおこりうる「大人から子どもに対するよくない関わり=避けたい子育て」も含まれるとのことでした。
例えば、「言うことを聞かないので軽くつねる」、「他の兄弟と比べる」、「長時間スマホを見せておく」などもマルトリのひとつです。
その中で、「長時間スマホを見せておく」育児について、友田先生によると…
最近は、乳幼児期の子どもにゲーム機やスマホなどデジタル機器を与えっぱなしで育児をする親、赤ちゃんを見ず、動画を見ながら授乳をする親など避けたい子育てをしている親が多くなってきており、ネグレクトと同様の影響が子どもの脳に現れ、またコミュニケーションの変容もみられる。
脳は、1歳で大人の70%に成長するといわれ、乳幼児期に脳のほとんどが育つ。また、子どもは生まれてから5歳ころまでに親や養育者との間に強い絆を形成し、これによって得られた安心感や信頼感を足がかりにしながら、周囲への世界へと関心を広げ、認知力や豊かな感情を育んでいくという成長過程をたどる。しかし、この大切な時期にスマホを長時間見せっぱなしにすることは、脳を傷つけ、親子の貴重なコミュニケーションの時間をなくし、子どもの愛着形成を阻害してしまう。脳が健康に育つためには、「十分な栄養・良好な睡眠」と「良い活動・良い経験」が大切であり、子どもの健全な発育には、特定の大人との愛着形成が不可欠である。
とのことでした。
子どもの愛着形成が阻害された愛着障害では、
・集団行動がとれなくなる ・粗暴になる ・他人に対して無関心 ・用心深い
・イライラしやすい ・多動 ・友達とのトラブルが多い ・人との距離感がたもてない(人見知りがない)
などの行動も現れるようです。
スマホを見ていれば、静かで良い、親自身の時間が邪魔されないなど一見よさそうですが、成長とともに、子ども自身が苦しみ、また親も悩み苦しむことにならないよう子どもとのコミュニケーションを大切にして子育てしていきたいものです。
友田先生は、傷ついた脳も愛着の再形成で脳活動が回復し、成長の遅れが回復する!とおっしゃっていました。そのためには、「褒める」ことだそうです。また、養育者が「孤立化=孤育て」にならないようみんなで子育てをしていく「とも育て」も必要ということでした。
子どもたちの将来が明るいものになるよう、大人みんなで責任をもって育てていきたいものですね。
参考
◆防ごう!まるとり マルトリ予防WEBサイト https://marutori.jp/
◆福井大学 子どものこころの発達研究センター 発達支援研究室 https://tomoda.me/